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奮戦記

【08.05.18】日本の財界にとって包括的EPAがもたらす恩恵とは?

   今国会に、「日本・ASEAN包括的経済連携協定」が提案されています。
 これは、いくつかの国と結ばれている2国間協定のうえに、ASEAN諸国全体と包括的に結ぶかたちでつくられる協定です。
 その特徴は、ひと言でいえば日本と相手国とのあいだの関税を相互になくすだけでなく、特定の鉱工業品について、ASEANに加盟している国々相互の間で日系企業の取引にたいして関税をなくす(累積規程の適用)ということにあります。
 なぜ、このような協定を結ぼうとしているのでしょうか。

   先日、外務省、経済産業省、農水省からレクチャーを受けました。
 私は、そのとき配布された資料に、次のように書いてあったことに注目しました。
 ──「現在、多くの日系企業が、日本およびASEAN各国で工程を分ける企業内・工程間分業を実施している。本協定の締結による原産地規則における累積規定が適用される結果、これら日系企業は、幅広い材料調達を行っても、生産する産品を本協定による特恵税率の対象とすることが容易となり、その結果日本およびASEAN域内における物品の流通の拡大が期待できる。これは、日・ASEAN域内全体の生産ネットワークの強化に資するものである」と。

   すでに、日本の自動車・電機を中心とする大企業は、ASEAN諸国に生産拠点を移し多国籍企業化しています。
 そのため、ASEAN諸国の貿易のかなりの部分が、日系企業の企業内取引で占められるようになっており、この傾向は年々高まっています。
 私は、『変貌する財界──日本経団連の分析』(新日本出版社、2007年1月)のなかで、次のように書いたことがあります。
 ──「日本の貿易に占める巨大企業の比率はきわめて高い水準を保っているが、その内容は次第に海外の現地法人との取り引きに置き換えられている。また、各国に設立された現地法人相互間の取引を増加させている」と。

   今回の協定は、財界の意向を受けて、これまでのように2国間で関税をゼロにするだけでなく、さらにすすんでASEAN域内なら、どこでも日系企業の企業内貿易の関税負担をゼロにできるというものです。
 これで、日系企業はいっそう大きなメリットを得ることになります。
 それは、もともと日本経団連やトヨタをはじめとする自動車会社、電機会社などが、以前から要求していたものです。
 日本国内からは、エンジンなどの高級部品を供給し、賃金の安いASEANでは中間財の生産・組み立てをおこない、それをASEAN域内で販売するだけでなく欧米・日本市場に輸出するという“生産ネットワーク”がより高度に形成されることになるのです。

 その結果、日本国内では、大企業の生産・組み立て分野を中心に、下請企業への単価切下げ、労働条件の引き下げ、雇用の削減などが予想されます。そしてそれは、地域経済の衰退をもたらす危険があります。

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